今回のネパール・エベレスト街道を歩いていてカトマンズの喧騒なみに驚いたことがある。私が宿泊した町、ルクラ・ナムチェ・パンボチェ・ディンボチェいずれの町も、トンカチ・トンカチあさから石を蚤で削る音がこだましていたことだ。昨年は、ディンボチェの一箇所だけ(しかも石をうつ音は既に終わり内装工事だった)。それに比べ今回は、多くの建築物件を見た。
不思議に思い、シェルパのリーダーであるサーダーに聞いてみた。すると建設ラッシュが続く理由を教えてくれた。昨年は、ルーナ・イヤーといって、日本でいう厄まわりの悪い年で、結婚・建設などの行事を控える年だったそうだ。またその厄まわりの悪い年は12年に1度めぐってくるとのこと。そのルーナ・イヤーがあけたので今年は建設ラッシュなのだという。
どうりで。一人納得してはみたが、更に聞きたいことができた。それは建築コストだ。石をトンカチトンカチ叩いて、石組みの壁をつくっているわけだが、数時間みていたところで一列もできない。しかも、石職人は10人以上いる。どうかんがえても人件費が高くつく。そこでシェルパに聞いた。「家(ロッジ)はいくらでできるのか?」。もちろん、大きさがまちまちなので、一概に値段もいえないし、日本のように坪単価という概念もなさそうだ。彼はナムチェで説明してくれた。ナムチェで建設中の「あの3F建ての建物」だったらあれは10,000,000ルピーだろう、とのこと。一千万ルピー!ざっと2千万円。別にたいしたことないように思えるかもしれない。ところが、職人の日当を聞いて、一千万ルピーの大きさをしった。
シェルパは続けて言う。あの石職人たち、一日に2つの石の形をととのえるだけの作業量。つまり、トンカチトンカチ石を叩いて2つの石を加工して並べる。その彼らの日当は500ルピーだそうだ。ざっと、1000円だ。一日の労働賃金の10000万倍の家。仮に日本の職人の日当が1万円としたら1億円、3万円(技術者ということで単なる日雇い単価以上の価格だろうから)だとしたら3億円。そんなロッジ。誰がそんな高価な家を建てるのだろう?続けざまに、誰がそんな大金を使うのか?そう聞いてみた。すると納得の答えが返ってきた。多くのロッジのオーナーなどは外国でしばらく働きお金を貯めた者だ。ネパールにいながらにそれだけの大金をえるということはまずないからね・・・。とのこと。
ついでに聞いてみた。ポーターの日当は?通常30キロくらいの荷物を運ぶポーターには一日食事込みで500ルピーを渡している。ただし、重い荷物や運びにくい荷物を運ぶポーターには1000ルピーを出している。話は変るがポーターらの食事風景を見てびっくりした。一日二食の彼らの一食の食事の量は、なんと、洗面器2杯分の米にダル(豆スープ)をぶっ掛けたもの。彼らは、それらをあっという間に食い尽くす。もちろん体力がいる仕事だから沢山食べるのはりかいできる。しかし、半端でない食事量は賃金内で支払う。その食事にかかる代金は一人一食50ルピーほどとのこと。つまり、一日2食だから、収入の2割が食事に消える。
一方、ポーターよりも労働がきつくないキッチンボーイはいくらだろうか?サーダーによれば400ルピーだそうだ。
こういった話を聞くと聞きたくなるのが、シェルパの単価だ。サーダーは自らいった。私は380ルピーだと。えっ、ポーター・キッチンボーイ・シェルパ・サーダー(シェルパ)という指令系統でいけば最上部にいる彼が一番安いとは・・・。しかも、彼の下にいるシェルパはもっと安い・・・だろう・・・。驚きだ。
ただ、シェルパでもクライミングシェルパといって登山専用のシェルパには、お客を登山でサポートすれば、それなりのボーナスがでる。昨年、のぼったアイランドピークをサポートするシェルパは10,000ルピーのボーナスがもらえるとのこと。
今回の我々の遠征では再びアイランドピーク登山を候補にはいれていたので、3人のクライミングシェルパが用意された。彼らは日給が380ルピー以下のなか、10000ルピーのボーナスに期待が大に違いなかった。ところが、プロジェクトリーダーの気まぐれで3人のクライミングシェルパには活躍の場がなく、ボーナスはフイに・・・。
多くのシェルパにとって、一年で稼げる機会は秋と春の合計4ヶ月だけ。しかも、それぞれに合計4回のお客にめぐり合うのが例年だとのこと。つまり、稼げるのは一年のうちの4ヶ月だけで、しかも、その4ヶ月も仕事が埋まるのは半分あればいいところ。その半分が380ルピー×日数だ。1万ルピーは大きかっただろうに・・・。現金にたよらなければならない生活をしている彼ら、なかなか財布は厳しかろう・・・。
そんなことで、かのサーダーもこれまでに数度、オーストリアで皿洗いなどの日雇い労働をして収入を得て生活した経験もあるとのことだった。
そんなことに心を痛めながら、あるシェルパの言葉にまたこころをいためた。「お前の登山靴、いい登山靴だね。これいくら?」なやんだ挙句に正直に、600ドル(35000ルピーくらい)とこたえた。この値段の響きを彼はどう感じたんだろう・・・。