変哲もない、4、5階建ての学生アパート。1Fの駐車場は京都ナンバーの車1台と数台の自転車で埋められいた。しかし一階は店舗になっていた。だだし、網ガラスで中の様子はわからない。そしてその店舗のドアの右がわの目の位置には、インターホンが設置してあり「御用の方はインターホンでお尋ねください」とある。私は、もしかしたら、なにかの会社かもしれないと思いつつ、何度か場所を確認し、間違いないことを確かめて、そのボタンをおした。すると内側から、明るく元気なこえで「どーぞーぉー」と聞こえてきた。どうやら、怪しい店舗ではなさそうだ。
ドアを開けると数人がリビングでくつろぐ姿がみえた。若い男、女・・・。人種的には60年代のヒッピーの類の人たちだ。我が家でくつろぐ仲良しクラブ、そんな雰囲気だった。まいった。「ヒッピー」的な「仲良しクラブ」の人種は、私が苦手とする人たちだ。ちくしょー、このドアから出入りするとなると、何をするにも「ヒッピーS]と顔を合わせなければならなく、少しだけ後悔・・・。
しかし、店舗の奥からでてきた声の主は、ヒッピーの幼虫のような状態の人で、まだヒッピーになりきっていない。しかも、「ハキハキ」「丁寧な応答」で、宿のチェックインに応じてくれた。促されて宿帳に名前と住所を書く。そのページにさっと目を通したが、韓国人らしき名前はあるが、ほとんどは日本人。そこで私は仮説を立てた。なるほど、「基本はヒッピー・コンドミニアム」で、値段の安さ(大部屋一泊一人2500円、寝袋使用部屋の場合は一泊1000円)から、日本慣れした外国人が稀に使う宿かと。
炊事・テレビ・トイレ・パソコンなどはここでします。鍵はオートロックですが暗証番号はこの紙にありますので、何時につかっていただいても結構です。そういわれて部屋に案内された。
驚きは、その宿の構造だ。私はてっきり、リビングの奥の階段で、建物の奥の部屋に行くのかと思ったが、じつは、リビングは単なるたまり場で、宿泊は、リビングとは違う入り口になっていた。停めてあった車の奥の螺旋階段を上って、1F、2F、案内人は「ご旅行ですか?」などと親しげに、しかし、礼儀だだしく尋ねてきた。あぁ~この兄ちゃん、だいぶ気を使ってるなぁと思う間に、私は3Fに通された。
3Fは、トイレをはさんでプライベートルーム(個室)が西に2つ、東側に1つの大部屋という構成だった。私が案内された大部屋には、二段ベッドが5つ設置され、さらに二段ベッドより高い位置に、二台分のベッドの広さのロフトがあり、その大部屋は都合12人が宿泊できるようになっていた。その大部屋には、浴室と便所がある。私は、その二段ベッドのうちの1つに案内された。すでにチェックインしている人がいるらしく、各ベッドには寝そべる人、またはリュックがあり、この宿の繁盛振りがうかがえた。
さて、驚いたのはその部屋のつくりだけではない。まず、チェックインしたがすでに大部屋は消灯されていたことだ。しかも、人はベッドのエリアから出てきて、空いているスペースで「だべっている」こともなく、行儀よく、どうやら天を仰ぎながら静かに寝入るのを待っているようだった。つまり、私のような新参者が大部屋に入ってきても、誰一人声もかけないし、関心も示さない。「よかったぁ~」
私は深夜9時に待ち合わせがあったので、京都の北白川というところで人に会うようにしていた。そのため、チェックインをしたら、早々に出かけなければならない。ただ、気になるのは、帰りの門限だ。そのことをたずねると「門限はありません」とのこと。そこで私は気になった。右手が手持ち無沙汰だったからだ。「あのぉ、鍵は・・・?」「鍵はありません。施錠しませんから」。なるほど、これならいつ帰ってきても、すでに消灯されているし、ドアは開いているし、迷惑かける行為(夜中の風呂や便所など)をしなければ、ほんと快適に気を使うことなく寝れそうだ。さきほどの、私のヒッピー仮説は間違っていた。ほっとした。
さて、9時の会合も先方の打ち合わせが長引き、教えを請うために面会できたのは10時45分。そこから食事をしながら教えを請い(これが非常に勉強になった)、イビキをかかないように「酒を控え」、深夜12時40分に宿にもどった。もちろん、大部屋は暗く、あちこちで、「いびき」「はぎしり」が聞こえてくる。私は手早く、靴下とズボンを脱いでパンツとシャツで布団を被って眠りについた。
あさ、6時、誰かの鳴らした目覚ましで目を覚ましたが、快適な朝だった。耳栓をもっていたので(ネパールで学習した)、深い眠りをえることができた。とはいうものの、目を閉じたら再び寝入ってしまった。
7時ごろ、話声で目が覚める。女性の声だ。たしかこの大部屋は男女兼用だったはず。そういうわけで女性も、ベッドのどこかで一夜を過ごしていたのだろう。その声の主の言葉に耳を澄ます。また話しかけられた男性の返事にも耳をすます。「おそらくタイ語」である。なるほど、インターナショナルな宿でもあるなぁ。そう思った。そうやって私が目覚めたとき、私のベッドの下段から人がむくっとおきてきた。お利口そうな白人男性だった。なるほど、この宿は面白い!そう思った。ヒッピーではなく、確かに「ゲストハスウ」そのものだ。
もちろん、鍵はないから、チェックアウトもそのまま、部屋からでればそれで終わり。またとまりたくなる宿だ!
私は、その宿からの帰り道、散歩がてらに御所と二条城に向かった。